がんの検査について



検診
その検診にかかる費用に対して十分に患者さんが得る利益が大きい場合には公費負担となり、それは「検診」と書きます。例えば子宮がん検診や、50歳以上のマンモグラフィー、便潜血検査はその代表です。利益が大きくなくとも政治的に決着がついていて検診になっている場合があります。

健診
一定の利益を得ようとすると検査にかかる費用が大きい場合にはそれを公費で負担することは実際には難しいという事になります。これは「健診」と書きます。私が8年の間勤務していた癌研(有明)病院健診センターの「健診」はあえてこの文字を使用しています。

大雑把に計算して年間1%以上の確率で癌を発見出来るような検査は、十分に対費用効果が高いと考えられます。逆に頻度が0.1%以下ならば、公費負担は無駄でしょう。

ではいわゆる「人間ドック」では十分にがんを見つけ出すことが出来るでしょうか。
私がいた癌研有明病院の人間ドックでは大腸癌を除けば非常に高精度であると思います。(大腸内視鏡はS状結腸まで)
また、国立がん研究センターのドックも非常に高精度です。
他の施設の健診については特にコメントはありませんが最終診断まで出来るレベルに達しているとは到底言い難いものがほとんどです。

精度の高い「健診」には以下のようなものが挙げられます。
1)肺:肺CTと喀痰細胞診・・50歳以下では被曝によるリスクが利益を上回る場合もあります。
2)食道・胃・十二指腸・・癌を見つけ慣れた医師による内視鏡(ハイビジョン+NBI+色素)
3)大腸・・癌を見つけ慣れた医師による内視鏡(ハイビジョン+NBI+色素)
4)肝臓・胆嚢・・BC肝炎の患者さんは本来専門医で定期的にサーベイランスを受けるべきではあるが、偶発的に癌を見つけ得るのはやはり癌を見つけ慣れている医師ないしは臨床検査技師
5)乳腺・・マンモグラフィーとエコーの併用、造影MRI
6)子宮・卵巣・・細胞診+MRI併用
7)甲状腺・・エコー
8)腎臓・尿管・膀胱・・エコー+細胞診併用
9)骨軟部の悪性腫瘍・悪性リンパ腫など・・PET
10)膵臓・・IPMNならば、エコーで見つかる。

(公費でPSAが行われている現状ですので、前立腺については省略しました。また、これらの検査をしておけばp53抗体含めたすべての腫瘍マーカーの重要性は低いため省略)

と、いかにハードルが高いかおわかりでしょうか?(そして満たしているのは国立がん研究センターぐらいです)みなさんが受けている人間ドックとは項目が随分違うという感想を持たれたのではないでしょうか。完璧に近くやろうとすれば、どうしても医師個人の能力に頼らねばならないのです。

どのくらいお金をかけ、どの程度の検査をうけるべきかは健診者それぞれで違うだろうと思いますが、上記の基準を満たさない健診を受け、結果について過信している人が多い印象です。安心はもちろんしていただいて構わないのですが、過信ゆえに我々とのコミュニケーションがうまく行かない方がおられます。それは不幸なことなのでお気をつけ下さい。

それ以前に、病歴・嗜好品・家族歴から簡単に予測出来る癌は沢山あります。若い患者さんが来院した時には、個人個人に必ず効果的な検診の受け方、健診の受け方をアドバイスするようにはしています。正しい家族歴をお伝えいただけなかった場合にはもちろんその限りではありません。

なお、早期がんの発見を語る場合には
リードタイムバイアスレングスバイアスセルフセレクションバイアスなどの言葉の意味を知る必要がありますし、早期で発見することが本当に利益になるのかどうかについても随時情報をアップデートする必要があります。
「早期発見・早期治療だよ」などというのは、素人にしか許されない無邪気な言葉かもしれません。いつも繰り返し「本当にそうなのか」と自問しています。